2001年にパーマカルチャーデザインを主な仕事とするソイルデザインを立ち上げ、八ヶ岳南麓をフィールドに家族でパーマカルチャーを実践する四井真治さん。後編は、具体的なパーマカルチャーの実践例や、四井さんが見据える未来について語っていただきます。次世代を担うこどもたちに持続可能な未来を残すために何ができるのか、何を選んでいくべきか。四井さんのお話の中に、そのヒントがたくさんありました。

人が暮らすことで環境はよくなる

――四井さんはパーマカルチャーを実践するためになぜこの場所を選ばれたんですか?

以前は長野県の伊那市で築100年の古民家に住みながらパーマカルチャーを実践していたんですが、ハードルが高く思われてしまい等身大の提案がなかなかできなかったんです。それでこの場所に築30~40年の古民家が見つかって、2007年に移住しました。ちょうど子育てのタイミングとも重なったので、いま家族を実験台にパーマカルチャーを実践しているところです(笑)。

――実験台ですか(笑)?

そうです。だって、最終的には各家庭単位でこういう暮らしができるようにするのが理想だから、家族でどれだけのことができるのかを僕が証明しないと。実際にこうして暮らしている家族がいるという事例をつくらないとなかなかいい普及に繋がらないと思って、いま一生懸命やっているところです。見ての通りだんだん世界ができ上がりつつありますが、雑木林の木を切るのも、畑づくりも全て家族でやっています。切った木や竹はボイラーの燃料になりますし、草刈りはヤギの「ユキ」の担当です。こどもたちには3歳頃からできることをやらせていますが、これが日常なので楽しんでいますよ。

――動物も環境づくりの一員なんですね!

ヤギは広い範囲で飼うと自分の好きな草しか食べなくなっちゃいますが、1日1箇所に固定しておけば自分の周りの草を食べるので、それを転々と移動させれば最終的にきれいになります。ちなみにここは全部ユキがきれいにしました。動物との共生ってそういうことなんです。互いにいい関係を築かないと長続きしません。餌だって堆肥や生ゴミでまかなえば、無駄がないですよね。

この堆肥小屋の堆肥には、うちの生ゴミが全部入っています。家族のうんちやおしっこも。2週間前にはここにウサギを埋葬したけど全然臭わないでしょ。鶏やウサギも堆肥の上で飼うことで、糞がそのまま堆肥になります。命も有機物もみんなここに還って、堆肥になって畑に還っていく。前に飼っていたヤギが寿命を迎えてここに埋めたときにこどもたちは泣きましたが、土に還って次の役割を果たすのを目の当たりにしていますから、命の意味をリアルに学んでいます。

集めた雑草や落ち葉も、全部堆肥枠に集めて畑に撒いています。堆肥は循環の基本です。

畑にも、野菜から果樹、ハーブまでいろんなものを植えていますが、セロリやブルーベリーは家族のおしっこで育てています(笑)。相性がいいんです。ヘーゼルナッツは土を肥やす役割があるし、エキナセアは抗ウイルス薬なのでハーブティーにして飲んでいます。野菜は買うことがないですね。ここはもともと乾燥した土地ですが、土ができてくると保水力が保てるようになるので水やりも必要なくなります。

――ここで育ったものを食べて、排泄して、堆肥にすることで畑に還って、その土で育てたものがまた体の中に入る。本当に循環なんですね。しかもそれを繰り返すことで環境(土)もどんどんよくなる。

そういうことを意識して生きるのとそうでないのとでは、意味が変わってくるでしょ?

これはモリウミアスにもあるバイオジオフィルター(自然浄化装置)。うちの台所から出る生活排水はこのバイオジオフィルターに一旦取り込みます。この中には多孔質の砂利が入っていて、そこに棲む微生物が有機物を分解して浄化した水を、向こうのビオトープに流し込んでいます。

ビオトープにはメダカやカエルが棲んでいるし、わさびも育つほどの水質です。一般的に生活排水はよくないものとして下水道に流していますが、ここでは排水が出る(=人間が暮らす)ことが、ほかの生き物を増やすきっかけになっています。

環境問題は「人間がいるから環境を壊す」と捉えられがちですが、それは人間の存在意義を否定していることだから、本当はこどもたちにそんなことを教えちゃいけないんです。「人間がいることがほかの生物の暮らしを助けるし、環境をよくする」っていうことをきちんと伝えてあげたいですよね。

自然の仕組みに沿って社会をデザインする

――四井さんのような暮らしは私たちにも普通にできますか? 何からやればいいんだろうとか、ハードルが高そうだなとつい思ってしまいます……。

生ゴミコンポストなんかは都会でも手軽にできて家庭菜園にも役立ちますし、堆肥をつくってみる。あとは無駄遣いを極力やめてみる。みんな何か壊れたら買い換えるでしょ? 僕は日常の道具も大抵自分で直すし、一輪車や台車など必要なものはつくります。材料もリユースしたり、地元のボロ屋さんで安く買ってきたり。「四井さんは特別」と言われることもありますが、そんなことはなくて、昔から人間が普通にやってきたことです。クオリティは高くなくて十分。

――確かに、堆肥にしても昔は普通のことだったのに、いまは当たり前が当たり前じゃなくなっているんですね。

戦中・戦後までは普通にやっていたことです。頭で考えるよりも、まずは手を動かして考えないと! 「仕事は一人ひとりができることの集まり」っていう考え方があって、手を動かしているとその中で得意なことが出てきますよね。もともとこどもたちはそうして自分の得意なものを見つけて、社会に出てどう役立てるかを考え、それが職業になっていたはずですが、いまはそういう仕組みになっていない。

エネルギーも、二酸化炭素の排出量を減らしても根本の仕組みは変わっていません。本来なら自然エネルギーで駆動すべきだし、そういうふうに社会インフラを変えていくべきなんです。なぜなら僕らは地球上の生き物だから、自然の仕組みに沿って社会をデザインすれば必ずよくなるはずだし、人間の存在がいまの環境問題を全部解決できるはずです。社会が自然の仕組みに沿っていないから環境が壊れている。それだけのことなんです。

――とてもシンプルなことなのに、ものすごく入り組んで難しくなってしまっていますね。

みんながこういう暮らしをすることでそれぞれの住む場所が潤って、点が線になり、最終的に面になることが本当のエコロジーだと思います。そしてそこからまたいろんな産業が生まれるんです。そのためにパーマカルチャーがあるので、実際にこうして暮らしている人がいることは説得力に繋がると思っています。どこかでアクションを起こしていかないと、変わっていかないですから。

新しいものや新しい産業にばかり目がいく社会は成熟しません。「文明」じゃなく「文化」を大切に、みんながそういう価値観をもって暮らしを取り戻してくれたらいいなと思います。社会を動かすのは「消費」じゃなく「暮らし」です。最新技術を否定しているわけではなく、世の中をよりよくするために科学や技術の力がもっと活かされれば。こどもたちの未来のためにも、大人がそれを示さないといけません。

――難しいことをする必要はなく、普段の暮らしの中でできることから少しずつ意識を変えてみるのもアクションですよね。この先20年後や50年後、こどもたちの未来がどうなっていることが理想ですか?

今の暮らしが僕の目指す未来の暮らし方だから、この延長線上に教育があることが理想です。暮らしの中でいろんなことを学んで、それに足りないことを学校にやってもらう。本来はそうだったはずです。子育てや教育を学校や社会に任せるような考え方ではなく、各家庭の暮らしの中でこどもにいろんなことを経験させて、教育していく。いい成績をとるかどうかはわかりませんが(笑)、僕のこどもたちは何かを感じとってくれているはずです。でも、たまにはゲームもしますしハンバーガーも食べますよ。土台がしっかりあれば、ストイックになりすぎず、楽しみながらバランスをとればいいと思います。

自分で言うのもなんですが、今の暮らしが楽しすぎるんですよね(笑)。明るいうちに仕事を終えて、こどもたちが学校から帰ってくる頃に一緒に農作業をする。自分が実家にいたのも人生のうちで本当に短い間でしたから、こどもが大きくなると「この時間はいつまで続くかなー」と考えてしまうんです。だから今はこども中心で、なるべくこどもたちと一緒に過ごすようにしています。

自分で手を動かすことで自然の仕組みを知れたり、ほかの生き物が存在するありがたみを実感できたり、何よりうちみたいな暮らしはおもしろいしワクワクします。敷居が高く思われがちなハードルを下げるのも僕の役目なので、パーマカルチャーのライフスタイルや魅力を、より多くの人に提案していければいいですね。

四井真治
信州大学農学部森林科学科にて農学研究科修士課程修了後、緑化会社にて営業・研究職に従事。その後長野での農業経営、有機肥料会社勤務を経て2001年に独立。土壌管理コンサルタント、パーマカルチャーデザインを主業務としたソイルデザインを立ち上げ、愛知万博のガーデンのデザインや長崎県五島列島の限界集落再生プロジェクト等に携わる。企業の技術顧問やNPO法人でのパーマカルチャー講師を務めながら、2007年に山梨県北杜市へ移住。八ヶ岳南麓の雑木林にあった一軒家を開墾・増改築し、人が暮らすことでその場の自然環境・生態系がより豊かになるパーマカルチャーデザインを自ら実践。日本文化の継承を取り入れた暮らしの仕組みを提案するパーマカルチャーデザイナーとして、国内外で活動。

文/開洋美 撮影/渡邉まり子