東日本大震災による被害から立ち上がり、力強い歩みを続けている石巻市雄勝町。そこで多くのこどもたちに多様な学びを届けてきたモリウミアスは、7月で6周年を迎えます。そして、そんなモリウミアスの新たなプログラムとしてスタートした「MORIUMIUS@Home」(以下、モリウミアスアットホーム)もまた、7月から本格始動します。モリウミアスアットホームはオンラインを中心に、家や学校、どこにいてもモリウミアスの学びやライフスタイルを体感できるプログラム。立ち上げのきっかけや同プログラムの意義、今後目指すものについて、モリウミアス代表の油井元太郎さんに伺いました。コロナ禍を経て、新たなフェーズに入ったモリウミアスの今とは。

雄勝だけでなく、日常生活の中でこそ自然とのつながりを意識する

――オンラインによるプログラムやECサイトを軸とした新たなサービス「モリウミアスアットホーム」ですが、始めることになった経緯を教えてください。

新型コロナウイルスの影響で、モリウミアスでは2020年の4月からこどもたちや企業の受け入れを一時ストップしたのですが、当時はすぐに元通りになる見込みはありませんでした。そんなとき、自分たちなりにできることは何だろうと考えて出た案が、こどもたちがどこにいてもオンラインでモリウミアスとつながり、体験できる機会をつくることでした。

ただ、コロナ以前から構想はあったんです。雄勝のモリウミアスにこどもたちが来てくれるのはとても嬉しいことですが、こどもたちが1年の大半を過ごす日常でこそ、モリウミアスでの学びを活かしてサステナブルな生き方を実践できる場があれば、こどもたちの未来はもっと明るくなるはずです。特に、都会で暮らすこどもたちは自然との接点が極めて少ないです。そのため我々のほうから家や学校に出向き、モリウミアス的なライフスタイルや体験を届けに行くような関わり方ができないかと、以前から課題意識のようなものはありました。

――コロナ禍の環境がそれを後押ししたのですね。

zoomやオンラインでの様々なサービスの方法も一気に普及したので、これを機にやってみようと考えたのです。また、なかには色々な理由から雄勝のモリウミアスに行きたくても行けないこどもたちもいるはずです。だったらオンラインのようなツールを駆使することで、そうしたこどもたちを含めて、よりたくさんのこどもにモリウミアスとの出合いのきっかけをつくれるのではないか。そこで、2020年の春頃から準備を始めました。これまでは、冬・春コースといった季節プログラムを中心に行ってきたのですが、6周年に合わせて本格始動したところです。

雄勝の旬を味わい現地とつながる「学ぶBOX」「食べるBOX」

――モリウミアスアットホームのWEBサイトには「学ぶBOX」と「食べるBOX」があります。改めて、それぞれどんな内容ですか?

まず「学ぶBOX」ですが、対象は主に小・中学生のこどもたちとその親御さんです。内容はホタテやウニ、ワカメなど雄勝の魚介を使った料理をはじめ、モリウミアスで普段しているような体験が、オンラインを通してご自宅でもできると考えていただければ。例えば、ホタテが旬の時期にはご自宅にホタテをお送りし、翌日にモリウミアスのスタッフやプロの料理人、生産者の方が画面越しにサポートしながら、食材の生態について学び、捌き、夕食として食べる料理まで行います。最近では東京大学ONE EARTH GUARDIANSと連携して生き物としての学びは深まっています。お試しの1Dayや1年コースがあり、四季折々の雄勝の食材がご自宅に届くことになります。

また、食だけではなく農のプログラムもあり、家の生ゴミをコンポスト化して堆肥をつくり、その堆肥を使って自宅で野菜を育てていただきます。家にいてもモリウミアスと同じように自然のサイクルを生み出して循環を学ぶことで、ごみが“資源”という感覚に変わり、それが野菜や美味しい料理につながる楽しみも体感できます。「学ぶBOX」では、そうした人が自然をより豊かにする役割を体感することを届けられればいいですね。

「食べるBOX」は、雄勝の新鮮な魚介を定期便としてご自宅にお届けするほか、自然の素材を使った包丁・まな板など、暮らしの道具も販売しています。雄勝に来たことがあるこどもは雄勝の食材に親しみを感じるでしょうし、漁師や生産者の方のプロフィールも同梱するので、産地や生産者とのつながりを再認識する機会にもなります。スーパーではなかなか感じることができない食材や製品の背景にあるストーリー、地方とのつながりを、「食べるBOX」を通じて感じていただければと思います。

家族のあり方や食への意識を考えるきっかけに

――雄勝のモリウミアスでは大人とこどもとは完全に別行動ですが、特に「学ぶBOX」は、側で見ている保護者の方にとっても有意義な時間になりそうですね。

モリウミアスアットホームは、基本的には家の中でできるプログラムです。こどもたちが目の前で産地や生産者とつながり、食の背景を理解して、調理し変化する様子を目の当たりにすることで、保護者の方の感動や発見にもつながると思います。「普段見ることのない我が子の姿に感動した」「難しいことにも挑戦する姿がたくましく、こどもの可能性に改めて気付かされた」など、親御さんからも様々な感想をいただいています。自宅なので、こどもたちも緊張感なく安心してチャレンジしやすいようです。

なかでも嬉しかったのが、3世代で住んでいるご家族からの感想でした。こどもがつくった料理を夕食に出したところ、その子があまりに楽しそうに食材や生産者のことを話すので、具合が悪く食が細くなっていたおじいちゃんが、その日はとても嬉しそうに孫のつくった料理を食べたそうです。その姿を見て、こどもの母親であるお母さん自身が感動しということでした。

きっと「学ぶBOX」を通して、家の中での過ごし方、食に対する意識など、こどもも大人も様々なことを改めて考えることになると思います。こうした感想をいただくと、たった2時間のプログラムですが、家族のあり方、ライフスタイルをより豊かに変えるきっかけになるといっても過言ではないと感じます。

雄勝を飛び出し、全国各地のプロフェッショナルに会いに行く

――モリウミアスアットホームはオンラインプログラムが中心ですが、ときにはオフラインでのイベントを開いたり、生産者さんに会いに行かれたりもするのですよね?

そうですね。スペシャルプログラムとして年に数回、オンラインではない場も「学ぶBOX」の一環として用意しています。雄勝の食材を使って、自然が少ない都会のこどもたちを対象に行う食のプログラムと、一方で産地に行くこともとても大事だと考えているので、雄勝を飛び出し生産者に会いに行くといったプログラムも、この1年の間にいくつも行ってきました。

というのも、その土地ごとの文化や歴史はとても興味深いですし、農業に限らず漁業や林業、手仕事でものづくりをする職人など、こだわりをもってやられている方々は全国にたくさんいます。例えばモリウミアスで使っている包丁やまな板も、鳥取県や福島県やの職人さんが丁寧に手づくりされているものです。これまでそうしたものの背景やストーリーをこどもたちが知ることはあっても、実際に産地に行くことまではありませんでした。さらに、モリウミアスプラスで取材した方々のところにこどもたちを連れて行くのも、私たちにとっては自然なことです。「学ぶBOX」としてぜひやるべきだと思っています。

これまでに開催したものをいくつか挙げると、昨年12月にモリウミアスアットホームのリリースイベントとして、モリウミアスプラスで取材したフードコンサルタントの山田剛嗣さんを迎えて、東京・巣鴨で料理のワークショップを開催しました。こどもたちには山田さんと一緒にホタテを殻ごと捌き、極上のイタリア料理に挑戦してもらいました。

5月には、自然との共生を家族で実践され、モリウミアスの場をデザインしているパーマカルチャーデザイナーの四井真治さんの山梨のご自宅に、こどもたちとご家族で出かけるツアーも実施しました。

ですので、自宅にいながらオンラインで雄勝とつながることも行いながら、実際に生産者やモリウミアスに関わる方々とご家庭をつなげることで、こどもたちの学びをさらに応援していければと考えています。

「場」から「ライフスタイル」へ。
見据えるのはこどもたちが主体的につくるサステナブルな未来

――改めて、モリウミアスアットホームの役割はなんだと思いますか。

モリウミアスアットホームを立ち上げる際、こどもたちの学びになることはなんだろうと改めて考えたときに、やはり全国各地からこれまで積極的に関わってきた素敵な方々と一緒に何かをすることが、より豊かな学びになるのではないかと思いました。だから、一つはコミュニティづくりなのかもしれません。こどもの教育や自然との共生、食などといった切り口はありますが、会員となるご家族とその対極にいる生産者、ものづくりをしている方、そうした方々をつなぐことが、モリウミアスアットホームの役割でもあると感じています。

こどもたちには、「モリウミアスが家に来た!」という感覚で楽しんでもらえたら嬉しいです。モリウミアスアットホームに“どこでもモリウミアス”というキャッチコピーを付けているのですが、これまでモリウミアスはどちらかというと「体験施設」や「場所」のイメージが強かったと思うんです。

もちろん雄勝のモリウミアスは原点ですし、ここでの活動は変わらず続けていくのですが、今後は「場」としてのモリウミアスから、家の中や学校、地域、どこにいても実践できる一つの“ライフスタイル”として進化したと考えてもらえるといいと思います。例えば、自宅で生ごみコンポストをつくるときに「いいね、モリウミアスしてるね!」という言葉が自然と出てくるような未来になればと、このプロジェクトの案を練っているときに考えていました。

これからモリウミアスアットホームを通して、そうしたモリウミアス的なライフスタイルをより広めることに、私たちも舵を切っていければと思っているところです。それが雄勝であってもなくても、オンラインでもオフラインでも、こどもたちがサステナブルな未来を切り開くための力を育むプログラムを届けていく、ということに変わりはありません。ただ、そのためにこちらが何かを定義付けて教えるのではなく、こどもたちが主体的に学びとり、実践し、自分たちなりの未来をつくっていく。そのためのきっかけに、モリウミアスアットホームがなっていければいいですね。

MORIUMIUS@Home

油井元太郎(ゆいげんたろう)
1975年生まれ。MORIUMIUSフィールドディレクター。
アメリカで大学を卒業後、音楽やテレビの仕事を経て、キッザニアの創業メンバーとしてコンテンツの開発に取り組み、2006・09年に東京・甲子園にキッザニアをオープンさせる。2013年より宮城県石巻市雄勝町に残る廃校を自然の循環や土地の文化を体感する学び場として15年にMORIUMIUSがオープン。地域資源をいかしたこどもの教育を通じた町の新生を目指す。2015年日経ビジネスが選ぶ次代を創る100人に選出。

撮影/渡邉まり子 文/開洋美