北海道・旭川市の中心部から車で30分の場所にある東川町。今回訪れた「北の住まい設計社」は、北海道産の無垢材を使った手仕事による家具をベースに住宅までを手がける家具メーカーです。廃校になった小学校の校舎を再利用して、1985年から渡邊恭延社長のもと家具づくりをスタートしました。現在多くの家具職人が工房を構える東川でも先駆的な存在の「北の住まい設計社」。モリウミアスやアネックスで使われるベッドも、同社が手がけたものです。前編では、「北の住まい設計社」の工房を案内していただきながら、家具づくりの現場を見学させていただきました。

天然木を材料にした「無垢材」の家具

「北の住まい設計社」は1985年、当時それまで勤めていた設計事務所から独立したばかりの渡邊恭延(やすひろ)社長が、自然とともにある、そしてこどもたちのこどもたちの代まで永く使い続けられる家具づくりをしたいと考え、廃校になった小学校をリノベーションして立ち上げた家具メーカーです。「100年や200年、木が森で生きてきたのと同じ年月を家具として生きてほしい」。それが、渡邊社長をはじめとする「北の住まい設計社」の思いです。

そのため、同社で使用する木材はすべて天然木を材料とした「無垢材」です。無垢材の家具は木目の入り方もすべて違い、使うほどにどんどん風合いが増して味わい深くなっていくのが特徴です。ショールームではテーブルや椅子、ベッドなど、「北の住まい設計社」がこだわりをもって製作する家具を自由に見ることができますが、どれも本当に手触りがよく、手にしっくりと馴染む感覚。

現在家具や壁、床材などは、ベニヤ板をボンドでくっつけて重ね合わせた表面に、木を薄くスライスした「突板(つきいた)」というシートを貼り付けたものが主流です。これは価格も安く、世界中で大量生産されています。突板は0.2ミリほどと薄いため、最終的にウレタン塗装で表面を固く覆って保護することが多いそうですが、長く使うと角が傷んで、そこから湿気が入ることで塗装がポロポロと剥がれ落ちてしまいます。素敵な家具も、これでは台無しです。

天然の木は「呼吸」しているので、湿度や温度の変化で収縮し、夏と冬では5ミリほど変わるといわれています。そのため「北の住まい設計社」では、テーブルの天板の裏や机の引き出しに反り止めや「隅木」といわれる補強材を入れて固定するなど、あらゆるところに木が動くことを前提とした加工を施しています。表からは見えない部分ですが、無垢材ならではの工夫です。

北海道産の安全・安心な木材を手間ひまかけて自然乾燥

同社では、木材も輸入材ではなく北海道産のものを使用しています。以前は輸入材も使っていたそうですが、温暖化をはじめとする地球環境のことを考えて、すべてやめました。市場に出回っている木材は防カビ剤や防腐剤を含んだものが多く、どうしたものかと考えていたところ、20年ほど前に北海道・厚沢部町の鈴木木材さんという製材所に出合い、現在はすべてそこから木材を仕入れているのだそう。

「北の住まい設計社」で長年工場長を勤めていた則末雅敏さんは、次のように話します。

「本来太さが揃った丸太の方が加工効率がいいので、多くの材木店は海外で太さを揃えて買い付けてきたものを製材するのですが、鈴木木材さんはイタヤカエデやミズナラをはじめ、北海道の森から出るあらゆる広葉樹をとりためています。太さがまちまちなので加工には時間がかかりますが、薬品などは一切使っていません。きちんと自然乾燥させれば木は何十年ももつのですが、それだけ手間もかかるので、売れない木はウッドチップにしてすぐにお金に変えてしまうのが今の日本の現状です」

「北の住まい設計社」では、鈴木木材さんから仕入れた木材を、工房に隣接する倉庫で1年半~2年、長いものでは10年くらい自然乾燥させて使用しています。多少黒ずんで変色しているものがあっても、表面を削れば十分きれいになるんだとか。

木材を乾燥させる際は風が通るように、木材の間に「桟木(さんぎ)」と呼ばれる角材を挟んで積み重ねます。ここで使われている桟木は、角材に凹凸をつけることで材木との設置面を極力減らし、空気の通りをよくするアメリカの特許製品。価格の問題から日本ではまだ普及していませんが、これにたどり着くまでには随分と試行錯誤があったそうです。通常は、製材して防カビ・防腐の薬品に浸けたあとですぐに切り出して使うことが多く、こうした自然乾燥のための倉庫や管理の手間は、必要ないことがほとんどなのだそう。

自然乾燥させたものを、今度は人工乾燥機の中で2週間~1ヶ月人工乾燥させて、水分をしっかり抜きます。

そして今度は、床暖の入った養生室で1週間ほど調湿します。例えばエクステンションテーブルなど、特に精密な家具を作るときはここでさらに1ヶ月以上ねかせることになります。そうするとこの段階で多少木が動くので、あとあと落ち着いて伸縮が少なくなる、といった利点が。この養生室は、渡邊社長が楽器の製材工場を見て思いついたものだそうです。

製品として使える材料になるまでに、これだけの時間がかかっていることにまず驚いてしまいます……。

無駄を出さず、一人の職人が一つの家具をつくり上げる

実際に、「北の住まい設計社」の工房にも案内していただきました。

建物はもともと1928年に建てられた東川第五小学校の校舎で、当時は校舎と体育館、教員住宅があったそうですが、1983年に閉校したため、同社がリノベーションして事務所やショールーム、工房として使っています。塗装はし直したものの、地域の財産なので、校舎や体育館など面影は当時のまま残したそうです。この敷地内にある木々は、スタッフの皆さんで植えて森にしていきました。

工房では流れ作業ではなく、加工から仕上げまで、一つのアイテムを一人の職人がつくり上げています。これは技術の継承のためでもあり、最初から最後まで一貫してできる技術をここで身につけてもらうためでもあります。

「流れ作業だと効率はいいのですが、腕を磨いた職人が時間をかけてつくったものは、やはり壊れづらいです。ゼロからここで学ぶ職人もいますが、精度が要求される家具を任されるまでには10年はかかります」と、則末さん。

塗装には、天然の亜麻仁油や卵の粉をベースにした「エッグテンペラ」という塗料を使っていて、自然な仕上がりになるのが特徴です。1度塗って4~5日乾かし、これを2回繰り返して最終的にワックスで磨き上げるので、塗装だけでも10日以上かかっていることになります。一般的なウレタン塗装なら短時間で済むそうですが、ウレタンは強い臭いがあり、それ相応の健康管理も必要とされる塗料。「安全のために時間が必要であればかける」というのが、「北の住まい設計社」の考えなのです。

また、張りは張り屋さんに外注しているところが多いそうですが、デザインに絡むことなので、ここではやはり一人の職人さんが一緒に行います。革は、植物のタンニンでなめした安全で環境にやさしい素材を、スウェーデンから取り寄せたもの。

長さの短い木材は引き出しの材料にしたり、使えないものが出たら薪にして再生エネルギーに。工房から出た鋸屑は、堆肥として使用しています。なるべく無駄なく、すべて使い切るようなシステムで製品づくりを行うのも、同社のポリシーです。

ものを永く大切に扱う心を育てる

ここでつくられる家具をどんな風に使っていただきたいですか?  という質問に、則末さんはこう答えてくれました。

「特にお子さんのいる家庭では、“ものを永く大切に扱う”という心を家具を通して教えてあげてほしいと思います。例えば家具に使われている木が大きくなるまでには100年もの年月が必要なこと。そういった“物語”を聞かせてあげることは大切です。でも、こどもはどうしてもものを投げたり蹴っ飛ばしたりしますから、それで壊れたら直せばいいんです。そのために当社の家具は、ばらせる仕組みにもなっています。ちょうど最近、モリウミアスのこども用ベッドが壊れたと連絡がありました(笑)。幕板という板の部分が割れたそうですが、材料を持って自分たちで直せるように修理の指導に伺いました。壊れたらすぐに捨てるのではなく、手間をかけて直す。これもまた、こどもたちへの大切な教えですよね」

もちろん、早くできて手頃な価格帯の家具もいいですが、自分が購入するものにどういった素材が使われていて、どんな影響があるのか。それぞれの製品のメリットやデメリットもきちんと把握した上で購入するのとしないのとでは、その後の愛着や扱い方も全く変わってくると思いませんか? 環境のことやこどもたちのために少しでも安全・安心なものをと考えたときに、「北の住まい設計社」のことを思い出してみてください。後編では、渡邊社長に同社の原点や家具づくりへの思いについて伺います!

渡邊恭延(わたなべやすひろ)
「北の住まい設計社」代表取締役。1945年北海道生まれ。1978年に設計事務所から独立し、1985年に東川町の廃校になった小学校をリノベーションした「北の住まい設計社」を設立。職人の手仕事を活かした道産の無垢材による家具づくりをはじめる。家具という「もの」だけではなく暮らしそのものを大切にとの想いから、衣・食・住を提案するショップやベーカリーカフェを敷地内に併設するほか、住宅部門も手がける。
〈北の住まい設計社〉

撮影/渡邉まり子 文/開洋美